「安定」とは何か？ 変化の時代に「働く意味」から考えるキャリアの軸
働くことに対する漠然とした不安と「安定」への問い
社会人として数年が経ち、日々の仕事に追われる中で、「この働き方で本当に良いのだろうか」と、漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。かつて「安定」といえば、一つの会社に長く勤め、年功序列で昇進し、定年まで勤め上げる、といったイメージが一般的でした。しかし、終身雇用制度が当たり前ではなくなり、産業構造が目まぐるしく変化する現代において、その「安定」という概念自体が大きく揺らいでいます。
かつての常識が通用しない中で、私たちはどのようにキャリアを築いていけば良いのでしょうか。「安定した働き方」を求めようにも、その形が見えづらくなっています。この変化の時代に、私たちは「安定」をどのように捉え直し、「働く意味」という視点から、自分らしいキャリアの軸を見つけていくことができるのかを考えてみたいと思います。
変化する社会と従来の「安定」観
高度経済成長期以降の日本社会では、多くの人にとって「安定」は特定の企業や組織に所属し続けることと強く結びついていました。正社員として大企業に入社し、定年まで勤め上げることが、経済的な安定や社会的な評価を得るための確実な道筋と見なされていたのです。
しかし、グローバル化の進展、テクノロジーの進化、そして新型コロナウイルスの流行など、予測不能な出来事が常態化する「VUCA（Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity）」と呼ばれる時代に入り、状況は大きく変化しました。企業の寿命は短くなり、いつリストラや事業撤退の対象になるか分からないというリスクも高まっています。また、働き方も多様化し、フリーランス、リモートワーク、副業など、組織に属さない、あるいは複数の組織に関わる働き方が広がっています。
このような状況下では、特定の組織に依存する形での「安定」は、もはや絶対的なものではなくなっています。むしろ、一つの組織に依存しすぎることがリスクとなる可能性すらあります。
現代における「安定」を再定義する
では、現代において私たちが目指すべき「安定」とは一体何なのでしょうか。それはおそらく、外的な要因に左右されにくい、より内面的な強さに基づいた安定なのではないでしょうか。
「外的安定」とは、勤務先の規模、雇用形態、役職など、自分を取り巻く外部の環境によってもたらされる安定です。これは変化の影響を受けやすく、失われる可能性もゼロではありません。
一方、「内的安定」とは、自身のスキル、経験、知識、人間関係、そして自分自身の揺るぎない価値観や哲学に根ざした安定です。これは、たとえ所属する組織や働く環境が変わったとしても、自分の中に蓄積され、持ち運び可能なものです。
現代社会において真に求められる安定は、この「内的安定」にあると言えるでしょう。変化の波に柔軟に対応し、どのような環境でも自分の力を発揮できるしなやかさ。そして、その基盤となるのが、自分自身についての深い理解と、仕事やキャリアに対する明確な「働く意味」なのです。
「働く意味」から見つける自分らしいキャリアの軸
自分自身の「働く意味」を深く探求することは、この「内的安定」を築く上で非常に重要です。なぜなら、「働く意味」は、外的環境が変化してもブレない、キャリアの確固たる軸となるからです。
あなたが働く上で最も大切にしたい価値観は何でしょうか。 どんな時に仕事にやりがいや喜びを感じるでしょうか。 どのような活動や分野に関心があり、自然と熱中できるでしょうか。 仕事を通じて、社会に対してどのような貢献をしたいと考えているでしょうか。
これらの問いに向き合うことは、自分自身の内側にある羅針盤を見つける作業です。給与や肩書きといった外的な基準だけでなく、仕事を通じて得られる成長実感、社会への貢献、自己実現、あるいは誰かの役に立つことそのものなど、自分にとって本当に価値のあるものは何かを明確にすることが、働く上でのブレない軸となります。
例えば、特定の技術を深く探求することに喜びを感じる人は、そのスキルを磨き続けることが「内的安定」に繋がります。人をサポートすることに価値を見出す人は、その能力を活かせる場であれば、組織形態に関わらず自身の安定を感じられるかもしれません。
内的安定を育むための具体的なステップ
「働く意味」を見つけ、内的安定を築いていくためには、日々の意識や行動も大切です。
- 自己理解を深める: 自身の強み、弱み、興味、価値観を定期的に見つめ直しましょう。ストレングスファインダーのようなツールを活用したり、信頼できる人にフィードバックを求めたりすることも有効です。
- 学び続ける姿勢: 変化に適応するためには、常に新しい知識やスキルを習得する意欲が必要です。オンライン講座の受講、書籍での学習、異分野の人との交流など、学びの機会を積極的に作りましょう。
- 多様な経験を積む: 本業以外の活動（副業、ボランティア、コミュニティ活動など）に挑戦することも、視野を広げ、新たな「働く意味」や可能性を発見することに繋がります。また、異なる環境に身を置く経験は、適応力を高めます。
- 人間関係を大切にする: 信頼できる同僚、友人、メンターとの繋がりは、精神的な安定をもたらし、困ったときに助け合えるセーフティネットにもなります。
- 小さな一歩を踏み出す: 大きなキャリアチェンジでなくても、日々の業務の中で自分の価値観に沿った行動を意識したり、興味のある分野について調べ始めたりするなど、できることから始めてみましょう。
まとめ：自分だけの「安定」をデザインする時代へ
現代における「安定」は、もはや誰かに与えられるものではなく、自分自身でデザインし、主体的に築き上げていくものです。それは、特定の組織にしがみつくことではなく、変化に対応できる自身の能力と、何のために働くのかという揺るぎない「働く意味」に支えられた、内面からの強さと言えるでしょう。
キャリアに漠然とした不安を感じるのは、変化の時代においては自然なことです。大切なのは、その不安を無視するのではなく、「安定」という概念を問い直し、自分にとって本当に価値のある「働く意味」を見つけ出すためのエネルギーに変えることです。
自身の内なる声に耳を傾け、「働く意味」を羅針盤として、変化に強い自分らしいキャリアの軸を築いていくこと。それこそが、不確実な時代を生き抜くための、そして働くことの喜びを見出すための鍵となるのではないでしょうか。