言語化で深める『働く意味』:曖昧なモヤモヤを自分軸に変える方法
「働く意味」が言葉にならない、そのモヤモヤの正体
社会人として数年が経ち、日々の仕事にも慣れてきた頃、ふと「自分は何のために働いているのだろうか」と立ち止まることがあるかもしれません。与えられた業務をこなす日々の中で、漠然とした不安や物足りなさを感じつつも、それが何なのかうまく言葉にできない。周りの友人がイキイキと働いているように見えたり、多様な働き方の情報に触れるたびに、自分のキャリアに対する迷いが深まる、そのような経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この「言葉にできない」モヤモヤは、決して特別なことではありません。多くの人がキャリアの中で一度は直面する自然な感覚です。そして、この感覚の背景には、自身の「働く意味」や仕事に求める価値観が、まだはっきりと自分の中で言語化されていない、あるいは変化している途上にあるという状況が考えられます。
「働く意味」は、単に生計を立てるためということだけではありません。仕事を通じて何を成し遂げたいのか、どのような状態を目指したいのか、どのような価値を社会や他者に提供したいのかといった、より本質的な問いに対する自分なりの答えです。それが曖昧なままだと、日々の仕事に対するモチベーションが上がらなかったり、将来のキャリアパスを選択する際に迷走してしまったりすることがあります。
では、この曖昧な「働く意味」を、どのようにして明確な言葉にしていくことができるのでしょうか。
なぜ「働く意味」の言語化が必要なのか?
自身の「働く意味」を言葉にすることには、いくつかの重要なメリットがあります。
まず、漠然とした不安の正体が見えるようになるという点が挙げられます。モヤモヤとした感覚は、形がないために捉えにくく、より大きく感じられがちです。しかし、「自分が求めているのは安定ではなく挑戦かもしれない」「誰かの指示を待つのではなく、主体的にプロジェクトを進めたいのかもしれない」のように、具体的な言葉で捉え直すことで、その不安がどこから来ているのか、何が満たされていないのかがクリアになります。
次に、意思決定の基準ができるという点です。キャリアには様々な選択肢があります。今の仕事を続けるべきか、転職すべきか、異動を希望すべきか、新しいスキルを学ぶべきか。自身の「働く意味」が明確になっていれば、「この選択は私の『働く意味』に沿っているか」という基準で判断することができます。これにより、場当たり的な選択ではなく、自分にとって納得のいく、一貫性のあるキャリアを築きやすくなります。
また、言語化のプロセスを通じて自己理解が深まります。自分が仕事に対してどのような価値観を持っているのか、どのような瞬間に喜びを感じ、どのようなことにストレスを感じるのか。過去の経験を振り返り、言語化を試みる過程で、これまで気づかなかった自分自身の内面に気づくことがあります。この自己理解は、今後のキャリアを考える上で非常に重要な土台となります。
そして、言語化された「働く意味」は、他者へ伝えやすくなるという側面も持ちます。上司との面談で自身のキャリア志向を伝えたり、転職活動で志望動機を説明したりする際に、自分の言葉で「働く意味」を語れることは、相手からの信頼を得る上でも、自分自身を深く理解してもらう上でも強力な武器となります。
「働く意味」を言語化するためのステップ
では、実際にどのように「働く意味」を言葉にしていけば良いのでしょうか。これは一度で完了するものではなく、繰り返し問いかけ、考えを深めていくプロセスです。いくつかのステップと、内省を深めるための問いかけをご紹介します。
ステップ1:自分自身への問いかけを始める
まずは、形式ばらずに自分に問いかけてみましょう。以下のような問いが内省の糸口となります。
- これまでの仕事経験で、特に「楽しかった」「やりがいを感じた」と感じたのはどんな時でしたか?
- 逆に、「辛かった」「納得がいかなかった」と感じたのはどんな時でしたか?その理由は?
- 仕事を通じて、将来どのような自分になっていたいですか?
- 仕事で得られるもので、お金以外に大切にしたいことは何ですか?(例:成長、貢献、安定、自由、専門性、人間関係など)
- もし明日から自由に仕事を選べるとしたら、何をしたいですか?それはなぜですか?
- 仕事を通じて、社会や周囲の人にどのような影響を与えたいですか?
- どんな環境で働くのが自分にとって心地よいですか?
これらの問いに対する答えを、考えがまとまらなくても良いので書き出してみることをお勧めします。
ステップ2:過去の経験を棚卸しする
問いかけと並行して、これまでの職務経歴だけでなく、学生時代の経験やプライベートでの活動も含めて、印象に残っている出来事を振り返ってみましょう。特に、「成功体験」だけでなく「失敗体験」や「葛藤した経験」も重要です。その時、何を考え、どう行動し、そこから何を学んだのかを深掘りすることで、自身の価値観や行動原理が見えてきます。
ステップ3:キーワードやフレーズを探す
問いかけへの答えや経験の棚卸しを通じて見えてきたことの中に、繰り返し現れるテーマや、心が強く動かされるキーワードがあるはずです。例えば、「新しいことに挑戦するのが好きだ」「困っている人を助けることに喜びを感じる」「地道な作業でも、完成度を高めることに集中できる」「変化の多い環境より、予測可能な環境を好む」などです。これらのキーワードやフレーズを拾い集めてみましょう。
ステップ4:言葉にしてみる(仮説を持つ)
拾い集めたキーワードや問いかけへの答えを組み合わせて、「私の『働く意味』は〇〇である」のように、一度言葉にしてみます。この時点では完璧な言葉である必要はありません。「たぶん、こういうことかもしれない」という仮説で構いません。例えば、「私の『働く意味』は、人々の生活を便利にするサービスを提供することで、社会に貢献することかもしれない」「私の『働く意味』は、自分の専門性を高め、誰にも負けないスキルを身につけることかもしれない」のように、いくつかの言葉にしてみるのも良いでしょう。
ステップ5:言葉を磨き、試し続ける
一度言葉にした「働く意味」は、それで終わりではありません。日々の仕事の中で、「これは私の『働く意味』に沿っているか?」と問いかけたり、他者との対話の中で自分の考えを話してみたりすることで、その言葉が本当に自分自身を表しているのかを検証し、必要であれば修正・洗練していきます。この言葉は、自身の成長や環境の変化によって、時間とともに変化していく可能性も十分にあります。
言語化の過程での向き合い方
「働く意味」の言語化は、すぐに答えが見つかる簡単な作業ではありません。むしろ、時間がかかり、時に混乱することもある探求のプロセスです。
重要なのは、すぐに完璧な言葉を見つけようと焦らないことです。最初は断片的であったり、抽象的であったりしても構いません。考え続けること、言葉を探し続けること自体に意味があります。
また、自分の「働く意味」が、世の中で評価されやすいものや、他者の「働く意味」と違っていても、気にする必要はありません。重要なのは、それが自分自身にとって納得のいく言葉であるかどうかです。
一人で考えて煮詰まってしまう場合は、信頼できる友人や先輩、またはキャリアカウンセラーなどに自分の考えを話してみるのも有効です。自分の考えを声に出して話すことで、頭の中が整理されたり、他者からのフィードバックによって新しい視点が得られたりすることがあります。
言語化された「働く意味」をどう活かすか
自身の「働く意味」が言葉になったら、それを日々の仕事やキャリアを考える上での羅針盤として活用しましょう。
- 日々の業務への向き合い方を変える: たとえ単調に思える業務でも、それが自身の「働く意味」のどの部分に繋がっているのかを意識することで、内発的なモチベーションを見出すヒントになります。
- キャリア選択の基準とする: 転職、異動、新しい学びなど、キャリアに関する重要な意思決定をする際に、「これは私の『働く意味』を実現するために役立つか?」と問いかけ、判断の軸とします。
- 困難に直面したときの支えにする: 仕事で壁にぶつかったり、思い通りに進まなかったりした時でも、自身の「働く意味」を再確認することで、乗り越えるための原動力とすることができます。
曖昧さを受け入れ、探求を続ける旅へ
「働く意味」を言語化することは、一度きりのイベントではなく、継続的な自己対話のプロセスです。現在のあなたが言葉にした「働く意味」は、未来のあなたにとっての全てではないかもしれません。しかし、今この瞬間に、自身の内面に耳を澄ませ、言葉にしようと試みるその営みこそが、曖昧なモヤモヤを乗り越え、自分らしいキャリアを築いていくための確かな一歩となります。
キャリアの「正解」が見えにくい時代だからこそ、自分自身の内側にある羅針盤、すなわち「働く意味」を明確に持つことが、多様な選択肢の中で迷子にならないための鍵となります。完璧な答えを求めるのではなく、自身の言葉で意味を探求し続ける旅を、ぜひ始めてみてください。